大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和60年(行ウ)41号 判決 1992年6月25日

原告

江菅洋一

右訴訟代理人弁護士

大澤龍司

高木甫

武村二三夫

藤田正隆

被告

大阪府知事

中川和雄

右訴訟代理人弁護士

宇佐美貴史

宇佐美明夫

辻芳廣

右宇佐美明夫訴訟復代理人弁護士

森戸一男

右指定代理人

清水洋

外六名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対し昭和五九年一〇月一五日付けでした公文書部分公開決定のうち、別紙処分目録1非公開決定部分記載の非公開部分についての決定を取り消す。

第二事案の概要

原告が大阪府茨木市に建設が計画されているダムのダムサイト調査資料の公開を請求したところ、被告が同資料の部分公開決定をしたため、非公開とされた部分について、その取消しを求めた事案である。

一争いのない事実

1  原告は、大阪府の住民であり、被告は、大阪府公文書公開等条例(昭和五九年三月二八日大阪府条例第二号。以下「本件条例」という。)二条四項の実施機関である。

2  原告は、被告に対し、本件条例七条一項に基づき、昭和五九年一〇月一日付けで、安威川ダムサイト調査資料の公開(閲覧)を請求(以下「本件公開請求」という。)した。

3  被告は、原告に対し、本件公開請求について、昭和五九年一〇月一五日付けで、同請求にかかる公文書を別紙処分目録1(一)ないし(五)記載の各文書(以下「本件各文書」と総称する。また、同目録1(一)記載の文書を本件文書(一)、同(二)記載の文書を本件文書(二)、同(三)記載の文書を本件文書(三)、同(四)記載の文書を本件文書(四)、同(五)記載の文書を本件文書(五)という。)と特定し、本件各文書のうち、同目録1(一)ないし(五)の各非公開部分欄記載の情報記録部分(以下「本件非公開部分」と総称する。)については、同目録1(一)ないし(五)の各理由欄及び同目録2記載の理由により、いずれも公開せず、その余を公開する旨の部分公開決定(同決定のうち本件非公開部分に関する決定を、以下「本件処分」という。)をした。

4  原告は、被告に対し、同年一二月一四日付けで、本件処分について異議申立てをした。

5  被告は、原告に対し、昭和六〇年三月二九日付けで、右異議申立てを棄却する旨の決定をし、右決定を記載した書面は、同月三〇日、原告に到達し、原告は、同年六月二二日、本訴を提起した。

二争点

1  本件非公開部分に記録された情報(以下「本件非公開情報」と総称する。)は、本件条例八条四号に該当するか。

2  本件文書(三)のうちの別紙処分目録1(三)(4)ないし(9)記載の各部分に記録された情報、本件文書(四)のうちの同目録1(四)(4)ないし(7)、(9)、(10)記載の各部分に記録された情報及び本件文書(五)のうちの同目録1(五)(3)、(4)、(6)、(8)ないし(12)記載の各部分に記録された情報(以下「本件争点2非公開情報」と総称し、同情報が記録されている部分を「本件争点2非公開部分」と総称する。)は、本件条例九条一号に該当するか。

3  本件処分は、それに付された理由が本件条例一二条四項に違反する不備なものとして、違法であるか。

三被告の主張(本件処分の適法性)

1  本件非公開情報が本件条例八条四号に該当すること(争点1について)

(一) 本件非公開情報が「府の機関…が行う調査研究、企画、調整等に関する情報」であること

大阪府は、昭和四六年度に樹立された「安威川ダム建設構想」(同構想において建設が計画されたダムを、以下「安威川ダム」という。)におけるダムサイト候補地・予定地の地質調査を業者に対し委託したが、本件各文書はいずれも、その地質調査についての業者の大阪府に対する報告書である。

すなわち、本件文書(一)及び本件文書(二)は、それぞれ昭和四六年度及び昭和四七年度に公有の安威川河川敷及び安威川沿いの道路敷において実施された地質調査の報告書であり、本件文書(三)は、昭和五〇年度に安威川左右両岸において、その土地所有者等の了解を得て実施された地質調査の報告書であり、本件文書(四)及び本件文書(五)は、それぞれ昭和五七年度及び昭和五八年度に地元住民の了解を得て実施された地質調査の報告書であり、本件各文書の内の本件非公開部分には、右各調査の担当者名及び調査・分析の結果等が記録されている。

したがって、本件非公開情報はいずれも本件条例八条四号前段にいう「府の機関…が行う調査研究、企画、調整等に関する情報」に該当する。

(二) 本件非公開情報を「公にすることにより、当該又は同種の調査研究、企画、調整等を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれ」の存在

(1) 「公にすることにより、当該又は同種の調査研究、企画、調整等を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれ」が存するかどうかを判断するためには、極めて多方面の専門的、技術的、政策的知識及び経験を必要とすることからすると、その調査等を行う機関自身が最も適切に右おそれの存否を判断することができるものというべきであり、その判断が尊重されねばならない。

したがって、右要件該当事由の存否、ひいては公文書を公開するか否かの判断については、実施機関の広範な裁量に委ねられているものといわねばならない。

また、一般的に「おそれ」とは抽象的危険を意味するものであり、右要件該当性の判断においても、著しい支障を及ぼす抽象的危険が存すれば足りるものと解すべきである。

(2)ア 安威川ダム建設に関するダムサイト予定地(以下「本件ダムサイト予定地」という。)の地質調査は、本件処分時点では、いまだ完了しておらず、本件各文書にかかる調査は、本件ダムサイト予定地の地質調査として必要とされる全体量の半分にも満たないものであった。しかも、同時点では、本件各文書記載の調査結果等に基づいてなされる地質総合解析も作業中で、いまだその結果が確定していなかった。したがって、以後、さらに多くの調査研究を加えたうえ、大阪府内部でも専門家を交え、あらゆる見地からの検討を加える必要があった。

イ 他方、安威川ダムの建設事業により直接影響を受ける茨木市大字車作、大岩、生保、大門寺、桑原、安威(以下、それぞれ単に「車作」、「大岩」、「生保」、「大門寺」、「桑原」、「安威」という。)の各地区の地元住民及び同人らによって組織されている自治会は、地元がダム建設の対象とならないことを希望し、同時に、ダムができることになった場合の生活再建、補償問題にも強い不安を抱いており、さらに、生保、大門寺各地区の住民は、本件各文書を含む「安威川ダム建設構想」についての関係資料の公開を強く拒否している状況にある。

ウ 以上のような状況の下において、本件非公開部分に記録された報告者の考察・判断・意見を含む本件ダムサイト予定地の地質構造・基礎岩盤の強度・透水性・断層の性状等に関する情報が公開されれば、その地質について、これら一部の限定された調査結果のみから全体が推測され、誤解を招くおそれがあり、それが、さらに右のとおりダム建設を希望せず、生活再建、補償問題にも強い不安を抱き、本件各文書の公開に反対している地元住民・自治会の間に、更なる不安、混乱、反発を引き起こすおそれがある。その結果、安威川ダム建設に係る今後の地質調査はもとより、地元で残されている各種調査、協議等を大阪府が公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすことは明白である。

(三) 以上のとおりであって、本件非公開情報は、本件条例八条四号に該当する。

2  本件争点2非公開情報が本件条例九条一号に該当すること(争点2について)

本件争点2非公開部分には、個人の所有地について、その土地の起伏状況、地下の土石・岩石の品質、性状、強度及びその分布状況並びに地下資源の分布状況等に関する情報が記録されており、この情報は「個人の…財産…に関する情報」に当たり、また「特定の個人が識別され得るもの」である。

さらに、それは当該土地の資産評価に関係するものであり、しかも、ダム建設にかかる地質調査という目的に沿って収集されたため、詳細かつ専門的で、精度も高く、一般的に収集可能な情報の範囲を超えている。したがって、その公開により、当該土地所有者の財産状況が判明することになるので、それは、個人の保護されるべき秘密・プライバシーとして、「一般的に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」といえる。

このように、本件争点2非公開情報は本件条例九条一号に該当する。

3  理由不備の不存在(争点3について)

本件処分に付された理由には何らの不備もない。

四原告の主張(本件処分の違法性)

1  本件条例の解釈指針

「知る権利」は、民主主義、国民主権原理と密接不可分の権利であり、それは、憲法二一条及び「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(以下「B規約」という。)一九条二項によって保障されているが、右「知る権利」には「情報を求める権利」、中でも「官公庁に情報の開示を要求する権利」が含まれているというべきである。

そして、この「知る権利」、「官公庁に情報の開示を要求する権利」は、「住民自治」を中核理念とする地方自治においても、最も尊重されるべき人権の一つということができる。すなわち、住民が、地方自治の主権者として将来に向かって地方自治の方向を正しく選択するとともに、地方自治行政の受け手として行政を監視し、行政の不当な権力行使によって、自己の人権等が侵害されることを防止するためには、住民自身が地方自治行政に関する情報を獲得できる地位に立つことが必要不可欠である。

ところで、住民が個別具体的な権利として右のような「官公庁に情報の開示を要求する権利」を行使するためには、情報公開制度の立法化が必要となるところ、本件条例は、その前文において、情報公開制度を民主主義の活性化にとって不可欠な制度としてとらえ、府の保有する情報は府民の共有財産であり、府民の生活と人権を守るために役立てるべきものであるとの認識のうえに立って、情報は公開が原則であることをうたい、「知る権利」の保障と地方自治の健全な発展に寄与することに条例制定の目的がある旨を明文をもって明らかにしており、同条例は、憲法二一条及びB規約一九条二項によって保障された「知る権利」に含まれる「官公庁に情報の開示を要求する権利」を直接的に具体化したものというべきである。

したがって、本件条例の各規定、とりわけ情報公開請求権を制限する公開除外規定については、憲法二一条及びB規約一九条二項との適合性が審査されるべきであるとともに、その解釈運用に当たっても、前記憲法二一条及びB規約一九条二項の精神、本件条例の制定理念・目的に沿って解釈運用されるべきである。

被告主張1(二)(1)のように、公開除外事由の該当性判断について、実施機関たる大阪府知事に広範な裁量を認めることは、右に述べた情報公開制度の趣旨に反するうえ、本件条例の規定にも反するもので、到底認められない。

2  本件非公開部分の公開の必要性(安威川ダムの危険性)

(一) 本件ダムサイト予定地は、市街地に近接し、その下流わずか数キロメートル隔てた場所に一〇数万人に及ぶ市民が生活しているため、ダム堤体の崩壊等による水害が発生した場合、大規模かつ深刻な被害が発生するおそれがある。

そうであるところ、ダム堤体の崩壊等の危険性如何は、ダム堤体を支えるダムサイト予定地の基礎岩盤の性質・強度等の地質状況如何に大きくかかっている。したがって、右地質状況についての調査資料は原告ら住民にも広く公開して、ダム建設計画の是非、内容についての討議、検討を住民参加のうえでなすべきである。本件非公開情報は、まさに本件ダムサイト予定地の地質状況に関するものであり、その公開の必要性は極めて高いものといわねばならない。

(二) 特に、以下のとおり、本件ダムサイト予定地については、基礎岩盤の強度・性質等地質状況の点で多くの問題があり、右公開の必要性は、より一層高いものといわねばならない。

(1) 本件ダムサイト予定地は、基礎岩盤の構成が場所によって異なっているうえ、いずれの種類の基礎岩盤にも断層や摂理が多数発達し、これらに沿って風化作用が深部まで進行しているため、岩質が脆弱化している。さらに、深度に応じた基礎岩盤の配置の点でも、深部に行くほど岩質が新鮮、堅硬になっていない場所も多いため、全体として座りの悪い不安定な岩盤となっている。また、相対的に堅硬・良好な岩質の二枚の岩層の間に相対的に軟弱・劣悪な岩質を有する岩層がサンドイッチ状にはさまれているため、不安定で地震に極めて弱い岩盤(以下「サンドイッチ地盤」という。)も存在している。

(2) そのため、本件ダムサイト予定地は、地震に対し十分な強さを有していないところ、同予定地付近には、地震の原因となり得る六甲―有馬―高槻構造線と馬場断層の二本の活断層が存在し、また、ダムの建設に伴いダム湖水の巨大な水圧がダム周辺の地殻に影響を及ぼし、その周辺に地震を誘発するおそれが存するなど、ダム周辺が地震に見舞われる危険性が大きく、地震により、安威川ダムのダム堤体自体が崩壊する危険が存する。

(3) また、本件ダムサイト予定地の右に述べた岩盤の状況からすると、ダムサイトの地下において水が浸透しやすく、浸透水が激しくなるとダムサイトの基礎岩盤においてパイピングが生じ、さらにはダム堤体そのものが崩壊することもあり得る。

(4) さらに、本件ダムサイト予定地周辺の地質は右のとおり不安定な状態になっているのみならず、被覆層も崩落しやすい性質をもっており、このような状態でダムの湛水がなされると、地下水位の上昇により地滑りや山崩れが発生しやすいとともに、地震等の場合にも、同様の危険があるところ、地滑り、山崩れ等大規模な土砂崩壊が起こり、ダムの貯留水を直撃すると、貯留水がダム堤体を越え下流を直撃することもあり得、さらには越流水によってダム堤体自身が破壊され決壊に至る危険がある。

3  本件非公開情報が本件条例八条四号に該当しないこと(争点1について)

(一) 同号の要件解釈とその要件に該当しないこと

本件条例八条四号は、規定の仕方が抽象的かつあいまいであるとともに、同規定は主として行政執行上の利益保護等、行政機関の便宜・都合を考慮したものであり、また、同規定の要件該当性を判断して文書を公開するか否かを決定するのは中立の第三者機関ではなく、当該行政機関自身である。したがって、同号該当性の判断は恣意的になされる危険性が強い。

そこで、前記1のとおり、憲法二一条及びB規約一九条二項の精神、本件条例の制定理念・目的に沿って、行政機関による同規定濫用の危険を防止すべく同号を解釈すると、そこにいう「著しい支障を及ぼすおそれ」があるというためには、行政機関の主観においてそのおそれがあると判断されれば足りるものではなく、そのような危険が具体的に存在することが客観的に明白であることを要するものというべきであり、また、右おそれがあるとしても、逆にそれを非公開とすることによる弊害はないか、また公開することによる有用性や公益性はないか等を総合的に検討し、公開非公開を決定すべきである。

本件においては、「公にすることにより、当該又は同種の調査研究、企画、調整等を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれ」が具体的に存在することが客観的かつ明白でなく、また、前記2のような本件非公開部分の公開の必要性等をも総合考慮すると、なお公開すべきものといえる。

(二) 被告の主張1(二)(2)に対する反論

(1)ア 地質調査とはそもそも特定地点の調査結果から地下全域の地質状況を推論するものであって、必然的に推論を伴うものであることからすると、住民が公開された文書を基に本件ダムサイト予定地の地質状況を推論するからといって、そのことをもって、住民に誤解が発生するとはいえない。

また、地質調査が一部未了で、本件調査結果は限定された一部のものであったとしても、それは大阪府が約一五年間にわたって実施してきた地質調査の結果であること、大阪府自身も、本件処分以前の昭和五〇年度には、それまでに行った調査の結果に基づいてダム建設が技術的・経済的に可能であるとの結論を出していること、安威川ダム建設計画は国の予算を獲得する段階にまで進んでおり、既に多額の費用が支出されていること、大阪府は府民に対して安威川ダム建設構想の内容を明らかにする一般府民向けパンフレットや計画書まで作成・配布していることなどからすると、本件処分の時点では、少なくとも本件ダムサイト予定地の地質状況について一応の判断ができる程度に調査が進み、被告においてダム建設の適否について一定の科学的推論が可能な程度の成果を上げていたものということができる。したがって、そのような段階に達している以上、住民が本件非公開情報を基に本件ダムサイト予定地の地質状況を推測しても、それについて誤解を生ずるおそれはもはや存在しなかったものといわねばならない。

さらに、本件処分時点で、地質総合解析が終了していなかったとしても、地質総合解析とは、本件各文書にまとめられた地質調査結果に対する分析であり、本件各文書における調査結果とそれに対する分析・推論である地質総合解析とは全く別個・独立のものである。したがって、調査結果を公開することにより住民に誤解が生ずるか否かと地質総合解析が終了しているか否かとは別問題というべきである。

イ 本件各文書を公開することにより、さまざまな議論が生ずることがあっても、それは本件条例の基本理念である「民主主義の活性化」に資するものである。

したがって、仮に議論が起こることによって、ダム建設が遅れることがあったとしても、それは本件条例が当初から予定している府民の府政への積極的参加から来るものであって、それをもって混乱ととらえるべきではなく、「府の機関…が行う調査研究、企画、調整等を公正かつ適切に行う」について「著しい支障」に当たるものとすることはできない。

ウ 仮に、何らかの「誤解」や「不安・混乱」が生じたとしても、大阪府はあらゆる広報活動を通して、府民の意見の中に見られる「誤解」を解き、あるいは「不安・混乱」を解消することができる。

被告は、本件において、ただ単に地元住民に「誤解」が生じ、無用の「不安・混乱」を招くおそれがあるというだけで、広報活動や説得活動によって、軌道修正することが不可能若しくは著しく困難となるような「誤解」の発生や「不安・混乱」を招くおそれのあることは何ら具体的に明らかにしておらず、このような場合、「公にすることにより、当該又は同種の調査研究、企画、調整等を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれ」があるものとはいえない。

エ 以上のとおり、本件においては、被告主張のような住民の間における「誤解」や「不安・混乱」の発生に伴う「当該又は同種の調査研究、企画、調整等を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれ」は存在しないものといわねばならない。

(2)ア 地元住民が、公開に反対しているという事実はそもそも存在しない。

イ 仮にこのような事実が存在したとしても、そもそも本件非公開情報は、公開しないことを前提として取得されたものではなく、前記2のとおり、安威川ダムの安全性を検証するための基礎資料として、高度の公開の必要性を有していることからすると、むしろ当然に公開が前提になっており、地元住民もこれを了解していたはずである。しかも、情報を公開することによって地元住民が不利益を受けることはない。

したがって、大阪府は、本件条例、情報公開制度の趣旨及び右公開の必要性についての広報活動や個別説得活動を通して、地元住民を説得することは十分に可能であったはずであって、地元住民の反対があったことをもって、「著しい支障を及ぼすおそれ」があったものとすることはできない。

ウ さらに、後記4(二)(2)のとおり、本件非公開情報は、一般的に収集可能なものであり、また、被告自身、本件処分時点以前に、地元説明資料として作成された「安威川ダム建設予定地地質総合解析結果報告書」と題する書面及び安威川ダム・ダムサイト地質総合解析地質図集(<書証番号略>)を公開している。

このように情報公開以外の手段方法ですでにその概要が明らかになっているような情報については、その公開について反対があったとしても、「公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」に該当しないことは明らかである。

4  本件争点2非公開情報が本件条例九条一号に該当しないこと(争点2について)

(一) 「個人の…財産等」に関する情報の不存在

(1) 本件争点2非公開情報には、本件ダムサイト予定地付近の地質調査の結果が含まれているが、ボーリング箇所等右地質調査の対象地には、安威川の河川敷や両岸の山の斜面も含まれており、前者については個人の所有でないことは明らかであり、後者についても公有地あるいは法人その他の団体の所有地が含まれている可能性がある。これらの土地に関する情報については、「個人」の財産等に関する情報には当たらない。被告は、右情報を本件非公開部分の中から、分離・特定して主張、立証しておらず、このような場合、本件争点2非公開情報が「個人の…財産…等に関する情報」であることの具体的主張、立証がないものというべきである。

(2) 鉱物資源の有無・種類については、そもそも、本件文書(三)ないし(五)に係る各地質調査の調査項目に入っておらず、それは本件非公開部分には記録されていない。

(二) 「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められ」ないこと

(1) 「財産…等に関する情報」は、精神的自由権等に関連する情報と比較するとプライバシーとしての保護価値が相対的に低く、「他人に知られたくないと望むこと」の「正当」性の判断については、他の個人情報よりも厳しい基準が要求されるものと解すべきである。

(2) 本件争点2非公開情報のうち、土地の起伏状況については、市販の国土地理院作成の地図、航空写真等により、地表面下の岩石の性状、土石の分布状況、土石の品質及び土地の強度についても、市販の通産省地質調査所作成の地質図等により、それぞれその内容を容易に知ることができるのである。このように、右情報は、一般的に収集可能なものであることからすると、それは、一般的に個人のプライバシーに関係するものとは観念されていないというべきであって、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当である」ものとは認められない。

(3) 仮に右情報のうちに一般的に収集可能な範囲を超える情報が含まれているとしても、本件のようにダム建設に関する資料として調査されたようなものについては、ダム建設の判断資料としては必要かつ有用であっても、個人の土地の資産的価値の評価に関係するようなものはほとんどなく、土地所有者としても特に関心を払わないのが通常であり、プライバシーとして他人に知られないことによって保護を受けるべき利益は現実的には存せず、その意味でも「一般に他人に知られたくないと望むことが正当である」ものとは認められない。

(4) さらに、本件争点2非公開情報は、府によって、安威川ダム建設の適否等の判断に供するという公共性ある目的のために収集され、所有・管理されているものであり、本来個人ではなく公共のための利用が予定されている。しかも、その内容は、土地の安全性、特に前記2のようなダムサイト建設予定地としての土地の安全性、ひいてはダム災害により被害を受けるかも知れない市民の生命及び財産等の重大な公益に深くかかわるものである。このような情報は、広く公開され、住民ないし市民に提供されなければならない性格を有しているものであり、その公益性からすれば、個人のプライバシーたる私益に勝るものとして、右情報について「他人に知られたくないと望むこと」の「正当」性は到底認められないものといわねばならない。

5  本件処分に付記された理由の不備による違法(争点3について)

非公開決定に付する理由は、行政府たる被告において恣意的に非公開にしたものではないことが判明し、かつ、請求人が非公開決定の理由を納得するに足りる程度に具体的であることを要する。

被告が本件処分に付した理由は、具体的にいかなる調査研究、企画、調整につき、どのような内容の著しい支障が生じるのかが明らかではなく、また、財産状況の公開についても、果たして特定の個人が識別され得るのか否か、ダムサイトの地質調査の結果についてまでも、一般に他に知られたくないと望むことが正当であるといえるのかについて全く言及していない。

したがって、本件処分に付記され理由は、極めて不十分なものであって、その理由付記は違法なものといわねばならず、本件処分自体も違法なものとなる。

第三争点に対する判断

一前提事実

<書証番号略>、証人清水洋、同上畑憲光、同宇野剛正及び同生越忠の各証言、原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実(一部、当事者間に争いのない事実を含む。)が認められる。

1  ダム建設事業における特色

(一) ダム建設事業においては、後記のとおり、ダムサイト予定地及びその周辺について、数多くの地質調査等を実施する必要があり、また、ダム建設により、右ダムサイト予定地はもとより、ダム湖湖底に水没する地域、さらには、付け替え道路関係地域等広範な地域が、立ち退き、明渡し等の対象となる。

これら調査及び立ち退き等を円満、円滑に進めるためには、一般の公共事業と同様に、地元住民、地権者等のダム建設によって影響を受ける関係者の理解と協力を得ることが不可欠であり、そのためには、右関係者の意向を十分尊重する必要がある。

特に、ダム建設事業においては、関係地元住民等はダム建設により、土地・家屋・墓地・道路・集会所・寺社等の生活基盤・産業基盤を広く喪失することになるため、それらの者の生活再建についての不安は極めて大きく、かつ、その受益が下流地域に限られるために犠牲感は極めて大きいのが一般であることから、起業者にとって、それらの者の理解と協力を得ることは容易ではなく、事業推進に当たっては、一般の公共事業以上により一層地元の意向を尊重しなければならないという特殊性が存する。

(二) ダム建設に当たっては、その安全性を特に重視する必要があるところ、ダムの安全性は、ダム堤体を支えるダムサイト予定地の基礎岩盤の性質・強度等の地質状況如何に大きくかかっている。

したがって、ダム建設事業においては、ダムサイト予定地の地質状況につき、十分な地質調査を経たうえで、その状況如何が判定されねばならない。

特に、地質調査における重要部分を占めるボーリング調査や横坑調査は、いわば点と線の調査であり、それによって、直ちに地下全体の状況を知り得るものではなく、点と点、線と線との間の状況については、必然的に推定が伴うという限界があり、推定部分を少なくし、基礎岩盤の性質・強度の判定をより確実なもの、精度の高いものとするためには、少しでも多くの調査が必要とされる。

2  ダム建設事業の一般的な手続の流れ

(一) ダム建設が計画される場合、まず、ダム建設の可能性、経済性及びダムサイトの位置等を検討するために、起業者である地方自治体の単独事業費で賄われる「予備調査」が実施される。そこでは、専ら各地点の地形状況に照らして、一ないし数ヵ所のダムサイト候補地が選定され、さらに、右各候補地についてのダム建設の可能性あるいは優劣の判断に必要な地質情報を得るための地質調査(ここにいう「地質調査」とは、地殻を構成する岩石・地層の分布、相互関係、形成過程、地質構造などについての調査・解析をいう。以下、同様。)である「計画調査」が実施される。

(二) その後、ダム建設に一応の可能性が認められ、ダムサイト候補地も絞られた段階で、予算的には国庫補助金も支出される「実施計画調査」が実施される。この段階では、選定されたダムサイト予定地について、後記「概略設計」を行うのに必要な地質情報を得るための地質調査である「概略調査」が実施される。そして、右「計画調査」や「概略調査」等によって収集された資料に基づき、ダムサイト予定地の地質構造、強度、透水性、断層の性状・形態等を総合的、統一的に検討する「地質総合解析」が実施される。この「地質総合解析」の結果に基づき、ダムの型式、高さ、堤長、堤体積、位置等の概略を設計する「概略設計」が行われる。

(三) 「概略設計」の後、後記「実施設計」を行うのに必要な地質情報を得るための地質調査である「詳細調査」が行われる。

(四) そして、ダム建設工事の発注に際して必要なダムの設計図の作成等を内容とする「実施設計」を行ったうえ、ダム本体の建設工事に着工する。

(五) 他方、右のような各種調査を行うに当たっては、民有地の調査はもとより、公有地の調査についても、地元の土地所有者や水没関係者等の了解を得ることが不可欠であり、調査に先立って、通常、地元との協議が実施される。

(六) また、ダム建設に伴い、前記のとおり、地元の関係住民は立退き等による生活基盤の喪失等、種々の負担を被るので、起業者は、水没家屋の補償、代替宅地の確保等をその内容とする生活再建対策や道路付け替え、土地改良、水道整備、公園整備等をその内容とする地域整備事業についての案を作成し、それらについても、地元協議が行われる。

(七) 調査が進んでダム建設が具体化する段階になると、起業者と地元との間で、ダム建設についての基本的合意及び以後の地元協議の進め方についての取決め等を内容とする「基本協定」が締結される。その後、起業者は、対象となる土地の単価や移転費用等についての一般的な補償基準について合意したうえ、個々の住民との間で、用地取得や補償手続を進める。

(八) さらに、ダム建設の着工前には環境影響評価が行われる。

3  安威川ダム建設事業の推移

(一) 昭和四二年七月に起こった北摂豪雨による安威川の堤防決壊に伴う河川氾濫を契機として、大阪府において、安威川の治水を目的とするダム建設が検討され、昭和四二年度、ダムサイト候補地として、車作地点、生保地点、生保・大門寺地点の三か所が選定された。右各ダムサイト候補地の地形・地質の現地調査について地元の了解を得るために、大阪府は、昭和四四年度より、主に生保地区、車作地区の住民との交渉を開始し、地元説明会を実施するなどし、同年地元住民の了解を得て車作地区の公有地について、ボーリング調査を実施した。

(二) その後、ダムの建設目的に利水を加えて多目的ダムとすることとし、昭和四六年度には、ダムの高さを70.5メートル、総貯水容量を二〇八〇万立法メートル、関係地区を車作、大岩、生保、大門寺、桑原、安威の六地区と予定した「安威川ダム建設構想」を樹立し、昭和四六年七月、その事業計画書(<書証番号略>)を作成した。

(三) 当時、右関係地区の住民はダム建設を認めておらず、民有地の調査については、地元の協力は得られなかったものの、公有地(道路、河川敷)の調査については、地元も特には反対しなかった。

そこで、大阪府茨木土木事務所は、梶谷調査工事株式会社に対し、右ダムサイト候補地のうち生保地点と生保・大門寺地点の二地点についてダムサイト適格性の比較検討を行うための「計画調査」を委託し、同社は、昭和四七年三月三日から同月三〇日にかけて、大門寺及び生保内の公有地(河川敷及び道路敷)において、ボーリング(生保において三孔、延長合計175.10メートル、大門寺において四孔、延長合計241.55メートル)、透水試験及び地質踏査等(以下、この地質調査を「本件地質調査(一)」という。)を実施したうえ、大阪府茨木土木事務所に対し、その調査・分析結果等についての報告書(本件文書(一))を提出した。

その結果、生保・大門寺地点(本件ダムサイト予定地)がダムサイトの最有力候補地となった。

なお、本件ダムサイト予定地に計画どおり、ダムが建設された場合、生保、大門寺の各地区は、全戸が水没することになる。

(四) 大阪府北部ダム建設事務所は、本件ダムサイト予定地の「計画調査」を梶谷調査工事株式会社に委託し、同社は、昭和四七年一二月一六日から昭和四八年三月三〇日にかけて、大門寺内の公有地(河川敷及び道路敷)においてボーリング(四孔、延長合計260.30メートル)及び透水試験等(以下、この地質調査を「本件地質調査(二)」という。)を実施したうえ、大阪府北部ダム建設事務所に対し、その調査・分析結果等についての報告書(本件文書(二))を提出した。

また、大阪府北部ダム建設事務所は、昭和四七年に、「安威川ダムの調査」と題するパンフレット(<書証番号略>)を関係する地元へ配布し、調査への協力を要請した。

(五) 本件地質調査(一)及び(二)は、いずれも安威川沿いの狭い範囲で実施されたものであり、ダムサイト予定地全体の地質を知るためには、さらに、安威川左右両岸の山腹斜面の民有地の調査が必要であった。そこで、以後、その民有地の調査に対する地元の同意を得るための交渉が続けられたが、地元代表者が知事に会い、ダム建設反対の陳情をするなどし、地元の了解は得られなかった。

(六) 昭和五〇年度になって、左右両岸山腹斜面の民有地の一部所有者の了解が得られるようになり、また、地元自治会も、積極的同意は与えないものの、調査にあえて反対はしない旨の意向を示した。

そこで、大阪府北部ダム建設事務所は、株式会社応用地質調査事務所に対し、本件ダムサイト予定地の地質構造を把握し、もってダム建設の資料とするための「計画調査」を委託し、同調査事務所は、昭和五〇年一一月六日から昭和五一年二月一六日にかけて、安威川左右両岸において、ボーリング(右岸斜面で三孔、左岸斜面で二孔。延長合計二五〇メートル)、透水試験のほか、それまでの調査結果を総合的に解析する地質総合解析等(以下、この地質調査を「本件地質調査(三)」という。)を実施したうえ、大阪府北部ダム建設事務所に対し、その調査・分析結果等についての報告書(本件文書(三))を提出した。

(七) 以上のような「予備調査」の結果、昭和五〇年度には、本件ダムサイト予定地におけるダム建設は位置的、技術的、経済的に可能であるとの一応の結論が出され、その内容は事業計画書にまとめられたうえ、建設省に提出され、同省も「実施計画調査」に入ることを認めた。

(八) 昭和五一年度から「実施計画調査」段階に入ったが、昭和五六年度までは、次のように生活再建対策、地域整備事業等に関する行政の姿勢を示すなど、ダム建設に反対している地元住民の協力を促す交渉に終始し、本件ダムサイト予定地の調査についても同意を得ることができず、「概略調査」は実施できなかった。

(1) 昭和五二年一〇月には、大阪府と茨木市が共同で、安威川ダム建設に伴う生活再建対策や地域整備事業の基本的事項についての地元説明資料である「安威川ダム建設関連事業計画」と題する書面(<書証番号略>)を作成し、同年一二月には、車作、大岩、生保、大門寺、桑原、安威の地元六地区の住民等に同書面を配布して、ダム建設への協力を要請し、また、昭和五三年度には、大阪府は、水没する各地区に代替宅地計画案を提示するなどの地元協議を行った。

(2) 昭和五三年から五四年にかけては、右六地区のうちの一部自治会との交渉が一年あまり途絶し、茨木市長の地元訪問により、ようやく交渉が再会された。

(3) 昭和五五年にはいって、大阪府は、生保・大門寺の各地区ごとに本件ダムサイト予定地への立入調査についての同意、協力を申し入れるとともに、大阪府と茨木市が共同で、地域整備計画や測量調査等についての地元説明資料である「安威川ダム現地調査について」と題する書面(<書証番号略>)を作成して、調査への協力を要請した。また、同年五月には、大阪府知事が地元を訪問してダムサイト調査への協力要請を行った。

(4) 昭和五六年八月には、茨木市が、安威川ダムの必要性、ダムに関連する地域整備事業等について記載した「安威川ダムの建設について」と題する書面(<書証番号略>)を作成して、水没関係地区を含め、広く一般に広報活動を行った。

(九) 昭和五七年度になって、ようやく、地元住民も、調査への協力姿勢を示し始め、昭和五七年六月六日、生保自治会会長と大阪府北部特定事業建設事務所(前出の大阪府北部ダム建設事務所が、同年に改組されたもの)の所長との間において、同自治会は本件ダムサイト予定地における測量及び調査を認めるが、それはダム本体工事を容認することまで意味するものではなく、覚書の締結がダム建設につながるものではない旨、測量及び調査終了後、同事務所所長は同自治会長に対し、その結果等について速やかに書面による報告をなすべき旨、測量及び調査の期限は昭和五八年一二月末までとする旨等を内容とする「安威川ダム建設予定地における測量及び調査に関する覚書」と題する書面(<書証番号略>)が交わされ、同年八月八日には、大門寺自治会長と大阪府北部特定事業建設事務所所長との間においても、右覚書とほぼ同様の書面(<書証番号略>)が交わされた。

(一〇) 右各覚書(以下「本件覚書」と総称する。)に基づき、大阪府北部特定事業建設事務所は、日本グラウト工業株式会社に対し、予定ダム軸付近の基礎岩盤の状態及びその透水性を把握し、ダムの「概略設計」に必要な基礎資料を得るための「概略調査」を委託し、同社は、昭和五七年九月七日から昭和五八年三月二五日にかけて、大門寺及び生保において、ボーリング(八孔、延長合計五三五メートル)、透水試験、調査横坑掘削(一坑、延長一〇〇メートル)を実施し、その調査結果等に基づき土木地質的問題点を検討するとともに今後の調査計画を立案し(以下、これらを内容とする地質調査を「本件地質調査(四)」という。)、同建設事務所に対して、その調査・分析結果等についての報告書(本件文書(四))を提出した。

(一一) さらに、大阪府北部特定事業建設事務所は、梶谷調査工事株式会社に対し、ダムの「概略設計」に必要な資料を得るための本件ダムサイト予定地の測量及び地質調査(「概略調査」)を委託し、同社は、昭和五八年六月二一日から昭和五九年三月二八日にかけて、大門寺及び生保において、ボーリング(九孔、延長合計七三五メートル)、現場透水試験、調査横坑掘削(左岸において一坑、延長六〇メートル、右岸において一坑、延長六三メートル)、弾性波探査、振動・騒音測定、岩石試験等を実施し、その調査結果等に基づき地質分布とその構造、地下水状況及び透水性について考察するとともに今後の調査計画を立案し(以下、これらを内容とする地質調査を「本件地質調査(五)」という。)、同建設事務所に対して、その調査・分析結果等についての報告書(本件文書(五))を提出した。

(一二) 以上のような「概略調査」と並行して、茨木市が生活再建及び地域整備についての施策案を作成し、昭和五八年から各地元自治会に提示するとともに、一部自治会と茨木市との間で、生活再建対策等について協議がなされた。

(一三) 昭和五九年度に、大阪府北部特定事業建設事務所は、財団法人ダム技術センターに対し、以上の「計画調査」及び「概略調査」の各結果に基づく地質総合解析を委託した。

(一四) 昭和五九年一〇月に、原告は、被告に対し、本件公開請求のほか、本件覚書等の公開請求をした。これに対し、大阪府では、生保、大門寺両自治会の意見を聞いたところ、これらの自治会は、右の各請求に係る文書の公開に反対した。その主たる理由は、これらの文書を公開すると、地元の人たちはダムの建設を認めていると受け取られ、ダムの建設が既成事実化するということであった。そこで、被告はこれらの意見も考慮して、同月一五日、本件公開請求について、本件各文書のうち、ボーリングや横坑掘削の実施数量及び市販の文献等によってすでに一般に明らかにされている調査の方法等に関する部分(以下「本件公開部分」という。)のみを公開する旨の部分公開決定をし、また、本件覚書は公開しないこととした。

当時、右地質総合解析が進行中であり、その過程で、本件ダムサイト予定地の地質が複雑なために、専門家が同予定地の既設の横坑に再度入って、地質状況を再確認する必要のあることが判明していたため、大阪府は、生保及び大門寺両地区に対して、再度の入坑調査について同意を求めているような状況であり、また、右地質総合解析の結果如何では、さらに、新たなボーリング等の追加調査を実施する必要が生ずることも予想された。なお、昭和五九年当時も、地元ではダム建設反対の声が強かった。

(一五) 地質総合解析進行中の昭和五九年一二月、本件覚書における報告義務に基づき、大阪府は、地元説明資料として「安威川ダム建設予定地地質総合解析結果報告書」と題する書面(<書証番号略>)及び安威川ダム・ダムサイト地質総合解析地質図集(<書証番号略>。以下、この地質図集と右書面を「本件地質地元説明資料」という。)を作成し、大門寺及び生保両地区の自治会に対し、それを説明、報告した。同資料は、その後、地元の了解が得られないままに公開された。

(一六) 昭和六〇年三月に、ダム技術センターは、大阪府北部特定事業建設事務所に対し、地質総合解析についての報告書を提出した。右地質総合解析の結果、ダムの「概略設計」を行うためには、本件ダムサイト予定地について、ボーリング調査や横坑調査等の地質調査がさらに必要であるとされた。

(一七) そこで、昭和六〇年度当初から、大阪府は、ダムサイト地質調査等の準備にとりかかったところ、同年三日、原告の異議申立てが認められて、前記原告の公開請求に基づき、本件覚書が公開された。

本件各文書の一部公開並びに本件覚書及び本件地質地元説明資料の公開等に関連して、大阪府は、大門寺自治会から、自治会長を通して、口頭及び書面による抗議を受けた。また、右公開直後の茨木市市議会の安威川ダム建設についての特別委員会において、右公開に関連して、茨木市の市議会議員が、公開は遺憾である旨の発言をし、同市の市長も、同様に、右公開は遺憾であり、知事に対して抗議する旨の発言をした。

右公開や「ダム建設ゴー」という見出しの新聞報道があったことで、地元住民の間に、大阪府は地元住民を無視してダム建設を進めていくのではないかという不信感と憤りが広がり、地元住民は、調査についての協議申入れにも応じなくなった。

(一八) その後、大阪府は地元住民と関係改善のための交渉を続けたところ、生保地区・大門寺地区ともに、昭和六〇年九月になって、ようやく事態の収拾が図られ、協議に応ずるようになり、昭和六一年一二月まで、地質調査や生活再建対策・地域整備計画立案等についての地元協議が行われた結果、同月、生保及び大門寺の各自治会は、同地域での調査を了解した。

そこで、大阪府は、昭和六二年一月から同年八月まで、両地区においてボーリング(二五孔)、横坑(六坑)などの追加地質調査(第二次「概略調査」)を実施した。

昭和六二年に至るまで、地元の六地区の住民は、ダム建設そのものには、一貫して反対していた。

(一九) その後、昭和六二年度から昭和六三年度にかけて、右調査の結果に基づき、第二次の地質総合解析が実施されるとともに、ダムの「概略設計」が行われた。

(二〇) 昭和六三年度以降、「詳細調査」に入り、ボーリング(四三孔)、横坑掘削(八坑)、竪坑掘削(一坑)、グラウチングテスト(三か所)等が実施されている。

なお、右第二次「概略調査」において実施済の地質調査とこの「詳細調査」で実施されている地質調査のボーリングの総延長は約四八八〇メートル、横坑掘削の総延長は約一四八〇メートルとなる。

(二一) 右「詳細調査」終了後、最終の地質総合解析及び実施設計が行われ、工事に着手される予定である。

二争点1(本件条例八条四号該当性)について

以上の事実を前提に、以下、本件非公開情報が本件条例八条四号に該当するか否かについて検討する。

1  「府の機関…が行う調査研究、企画、調整等に関する情報」の記録の有無(本件非公開情報の同号前段該当性)

前記認定の事実に、<書証番号略>、証人清水洋及び同上畑憲光の各証言及び弁論の全趣旨を総合すると、本件文書(一)は、大阪府茨木土木事務所が梶谷調査工事株式会社に委託した本件地質調査(一)についての報告書であり、その非公開部分には、同調査の担当者名のほか、調査地域の地形・地質状況、ボーリングコアの観察結果、透水試験の結果、右各調査結果に基づく調査地域のダムサイト予定地としての適格性についての比較検討、調査地域のダムサイト予定地としての問題点の整理と今後の調査指針、ボーリング柱状図、地質平面図・地質断面図及びコア写真等の調査・分析結果が、本件文書(二)は、大阪府北部ダム建設事務所が梶谷調査工事株式会社に委託した本件地質調査(二)についての報告書であり、その非公開部分には、同調査の担当者名のほか、調査地域の地形・地質状況、ボーリングコアの観察結果、透水試験の結果、調査地域のダムサイト予定地としての問題点の整理と今後の調査指針、ボーリング柱状図、地質平面図・地質断面図及びコア写真等の調査・分析結果が、本件文書(三)は、大阪府北部ダム建設事務所が株式会社応用地質調査事務所に委託した本件地質調査(三)についての報告書であり、その非公開部分には、同調査の担当者名のほか、既往調査の結果等、調査地域の地形・地質状況、地表地質踏査、ボーリング調査、透水試験の各調査結果とそれに基づく調査地域のダム基礎岩盤としての地質構造、強度、透水性、断層の性状等についての検討結果、調査地域のダムサイトとしての地形、地質上の留意点及びダムタイプ選定に当たっての留意点、今後の調査目的・方針及び調査内容の具体的提案等の調査計画案、ボーリングコア写真、現場写真、ボーリング柱状図、地質平面図・地質断面図等の調査・分析結果が、本件文書(四)は、大阪府北部特定事業建設事務所が日本グラウト工業株式会社に委託した本件地質調査(四)についての報告書であり、その非公開部分には、同調査の担当者名のほか、既往調査の結果及びそれに基づく問題点の検討結果、調査地域の地形・地質状況、調査横坑の観察結果、ボーリングコアの観察結果、現場透水試験の結果、既往調査及び今回の調査の各結果に基づく調査地域のダムサイトとしての問題点等の検討結果、今後必要な調査についての計画提案、ダムサイト地質平面図、ダムサイト地質縦断面図、ボーリング要約柱状図、ボーリング柱状図、コア写真等の調査・分析結果が、本件文書(五)は、大阪府北部特定事業建設事務所が梶谷調査工事株式会社に委託した本件地質調査(五)についての報告書であり、その非公開部分には、同調査の担当者名のほか、既往調査についての説明、調査地域の地形・地質状況、ボーリングコアの観察結果、現場透水試験の結果、試掘横坑の観察結果、横坑坑内写真及びその説明、弾性波探査の結果、扇射法式弾性波探査の結果及びその考察、振動・騒音測定の測定場所、結果及びその考察、岩石試験の結果及び顕微鏡観察の結果、岩石の顕微鏡写真及びその説明、既往調査及び今回の調査の各結果に基づく調査地域のダムサイトとしての問題点の整理・検討、地質分布と地質構造についての考察、地下水分布状況及び透水性についての考察、今後の調査計画、調査位置図、地質平面図、コア写真、現場透水性試験記録表及び計算書、ダムサイト測量図、測量計算書等の調査・分析結果がそれぞれ記録されていることが認められる。

以上の事実によれば、本件非公開情報はいずれも本件条例八条四号にいう「府の機関…が行う調査研究、企画、調整等に関する情報」に該当するものと認められる。

2  「公にすることにより、当該又は同種の調査研究、企画、調整等を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれ」の存否(本件非公開情報の本件条例八条四号後段該当性)

(一)(1) 前記認定のとおり、本件ダム建設によって影響を受ける六地区の住民はダム建設に一貫して反対しており、地質調査に対する協力の点でも、昭和四四年度から、関係地区との交渉を開始したものの、昭和五〇年度までは、民有地についての調査の協力を得ることができず、同年度になって、ようやく一部民有地の所有者の了解を得、調査をすることができたものであり、その後も、昭和五六年度まで地質調査についての地元協議は難航し、ダムサイト予定地についての地質調査は全く実施できず、昭和五七年度になって、ようやく、ダム建設自体についての同意は留保したまま、本件ダムサイト予定地の調査に対する生保及び大門寺自治会の同意を得ることができて、調査が実施されている。

このように、地元住民は一貫して本件ダム建設反対の立場を維持しており、地質調査に対する協力を得ることも非常に難しい状況が存していた。

(2) 前記認定のとおり、本件処分の時点では地質総合解析が行われていたが、その過程で、専門家が既設の横坑に再度入って地質状況を再確認する必要があることが判明していたうえ、地質総合解析の結果如何では新たなボーリング等の追加調査が必要とされることも予想されていたのであり、現に、追加調査が行われている。そして、地質総合解析の後には「詳細調査」が予定されていた。昭和四六年度から本件処分時までに本件ダムサイト予定地において実施済みのものは、ボーリングについては三〇孔、総延長約二〇二〇メートル、横坑掘削については三坑、総延長約二二〇メートルである(本件地質調査(一)ないし(五)、ただし、本件地質調査(一)の生保における三孔を除く。)のに対し、右時点以降に実施済み及び実施予定の地質調査は、ボーリングについては六八孔、総延長約四八八〇メートル、横坑掘削については一四坑、総延長一四八〇メートルであり、本件処分時点では、ボーリングについては、全調査量のうちの、孔数で約三一パーセント、総延長で約二九パーセント、横坑掘削については、坑数で約一八パーセント、総延長で約一三パーセントしか終了していなかったということができる。

(3) 前記認定のとおり、本件公開請求について、生保と大門寺の各自治会に意見を求めたところ、両自治会は、本件公開請求に係る文書の公開に反対し、また、現に、本件処分の後、本件公開部分、本件覚書等ダム建設に関連する文書の公開に対し、大門寺の自治会から、抗議がなされ、また、茨木市の市議会においても、市議会議員や市長が、右公開について、遺憾の意を表明するなど、地元は態度を硬化させ、調査についての大阪府からの協議申し入れにも応じなくなった。

(4)  以上の事実からすると、本件非公開部分(調査の担当者名及び調査の実質的内容)を公開すれば、地元住民の強い反発を招き、その後の調査や生活再建対策、地域整備事業等についての地元の理解、協力を得られなくなるおそれがあったものということができる。殊に、本件処分時点においては、実施済みの地質調査は、十分なものではなく、情報そのものが限定されているため、同時点で、本件予定地全体の地質状況について、一応の判断を下すことは格別、最終的判断を下すには、いまだ必ずしも十分ではない段階にあったものと認められ、このような時点で、本件非公開部分が公開されれば、右のような最終判断を下すにはいまだ十分なものとはいえない情報に基づき、判断者各自の推測により、本件ダムサイト予定地の地質についての結論が出され、それが必ずしも最終的判断とみなすことができるものではないにもかかわらず、一人歩きし、地元住民等の関係者の間に不安を引き起こし、今後の地質調査や各種協議等への非協力につながるおそれがあったものといわねばならない。そして、このように地元の理解、協力が得られないと、地質調査を含む安威川ダム建設事業の遂行が困難になるのであるから、本件においては、本件非公開部分を「公にすることにより、当該又は同種の調査研究、企画、調整等を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれ」が存したものというべきである。

(二) 原告の主張について

(1) 本件条例八条四号の「著しい支障を及ぼすおそれ」は具体的かつ客観的明白に存在することが必要等の主張について(原告の主張3(一))

原告は、憲法二一条及びB規約一九条二項の精神、本件条例の制定理念・目的に照らすと、本件条例八条四号にいう「公にすることにより、当該又は同種の調査研究、企画、調整等を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれ」があるとして公開請求に係る文書を非公開とするためには、そのような危険が具体的に存在することが客観的に明白であることを要し、右おそれがあるとしても、逆にそれを非公開とすることによる弊害はないか、また公開することによる有用性や公益性はないか等を総合的に検討し、公開、非公開を決すべきであると主張する。

しかし、本件条例で規定する公文書の公開を求める権利は、憲法二一条で保障された国民の知る権利に資するものではあるが、憲法から直接導き出されるものではなく、本件条例により創設的に認められたものというべきである。

したがって、いかなる公文書を公開の対象とするかは、条例の制定権者が決定すべき立法政策上の問題であり、非公開事由の要件に該当するか否かの判断においても、その規定の文言及び趣旨に照らして判断されるべきで、それ以上に、文言及び趣旨を超えて限定的に解釈すべき理由はない。

そこで、右の立場に立って本件条例八条四号をみるに、右規定においては、大阪府の機関が行う調査研究等に関する情報で、公にすることにより、当該又は同種の調査研究等を公正かつ適切に行うことに「著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」については、「公開をしないことができる。」と定められているのであって、原告が主張するような厳しい要件が右非公開事由として求められていないことは右文言上からも明らかである。もちろん、本件条例が右のように非公開事由を規定しているのは、大阪府知事を初めとする実施機関の担当する行政事務・事業が円滑に遂行・推進されることを期すためであるが、その前文や一条において、「情報の公開は、府民の府政への信頼を確保するための条件であり」「府が保有する情報は、本来は府民のものであり」「府の保有する情報は公開を原則とし」「府政の公正な運営を確保し」などと規定している本件条例の精神からみても、右八条四号により保護されるべき利益は実質的にそれに値するものであり、また、右「著しい支障を及ぼすおそれ」は、単に右実施機関が自らの立場で主観的に判断したところに従うべきではなく、客観的、具体的に存在していることが必要であるというべきである。

本件においては、被告が公開することを拒否したのは、本件ダムサイト予定地にダムを建設する事業を円滑に推進するためであり、しかも、右「著しい支障を及ぼすおそれ」が存在していることも、既に2(一)において判示したとおりである。

原告の主張は採ることができない。

(2) 本件非公開部分を公開する必要性が高いとの主張について(原告の主張2)

本件において、本件条例八条四号の「著しい支障を及ぼすおそれ」のあることは前記判示のとおりであるうえ、原告の主張するところは、結局、本件ダムサイト予定地に安威川ダムを建設するのは危険であるというに尽きるのであるが、本件全証拠によっても、原告主張のような安威川ダムのダム堤体崩壊等の危険性まで認めることはできず、その危険性をもって、一般のダム建設の場合以上の公開の必要性を認めることはできない。

この点、<書証番号略>中の「安威川ダム建設計画の問題点を探る(座談会)」及び「大阪府茨木市の安威川ダム建設予定地の地質及び自然環境にまつわる若干の問題点(意見書)」と題する部分及び<書証番号略>には、前記原告の主張に沿う部分があり、証人生越忠や原告本人も、同趣旨の供述をしている。しかし、右各供述によれば、それらの記事及び供述は、被告により公開されている資料や生越自身の地表調査に基づく資料等を基礎資料とするものであることが認められ、それは基礎資料として十分なものではなく、また、河川工学、土木工学及びダム工学などの見地から、仮に地質自体に何らかの問題を含んでいたとしても、設計及び施工において、それを補強することが可能か否かについての検討も十分になされているものではない。このようなことからすると、右記事及び供述から、直ちに、原告主張のような安威川ダムのダム堤体崩壊の危険性までを認めることはできないものといわねばならない。

ところで、前記(二)(1)においても判示したとおり、本件条例八条四号の規定は、情報のうち、公にすることにより、当該又は同種の調査研究等を公正かつ、適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれのあるものは「公開をしないことができる。」との表現がとられており、これを九条の「公開してはならない。」との文言とも対比すると、右八条においては、非公開事由に該当する情報であっても、右情報を非公開にするかどうかについては、実施機関に裁量の余地があると解される。したがって、実施機関は、公開することにより右業務の公正かつ適切な遂行に著しい支障を及ぼすおそれのある情報であっても、これを非公開とすることにより極めて重大な結果を生じるなど、右著しい支障の生じることの危険を冒しても、なおこれを公開しなければならないほどの事情がある場合には、これを公開することができるものというべきである。本件においては、既に認定してきたとおり、本件各文書の一部を非公開にせざるを得なかったについては、これを肯定するに足りる事情があったのであり、また右文書の公開の必要性についての原告の主張も、前記のとおり理由がないというのであるから、右文書を非公開とした被告の決定には、右裁量権の逸脱等これを違法とすべきところは全くない。

(3) その余の原告の主張について

右主張はいずれも左記の理由により採用することができない。

ア 本件非公開部分を公開しても誤解を生じるおそれはない等の主張について(原告の主張3(二)(1)ア)

前記(一)(2)で述べたとおり、本件処分時点における調査はいまだ十分なものではなく、原告の主張は採ることができない。

イ 本件非公開部分を公開することにより議論が生じても「著しい支障」には当たらないとの主張について(原告の主張3(二)(1)イ)

確かに、文書の公開によりさまざまな議論が生じることは、本来、本件条例が予定しているところであるということができるが、それにより、「調査研究、企画、調整等」に「著しい支障」が生じる場合にまで右条例が文書の公開を要求しているものでないことは、右条例八条四号の規定から明らかである。

ウ 大阪府は広報活動等により誤解を解くべし等との主張について(原告の主張3(二)(1)ウ及び同(2)イ)

原告の主張するとおり、広報活動等に努めることは大阪府の責務であるということができるが、右(一)(2)で述べたとおり、本件処分の時点では、地質総合解析の作業中であり、場合によっては、追加調査も必要とされるような状況にあったのであり、さらに、ダムの概略設計も終了しておらず、このような段階においては、大阪府は、ダム建設についての一応の可能性を判断することはできても、地元関係者等の右不安を解消するまでに十分な資料を持ち合わせていなかったものというべきであり、右説得活動は困難であったものと認められる。

また、前記認定のとおり、地元住民が公開に反対している主たる理由は、ダム建設に関係する文書が公開されると、第三者から、地元の人たちはダムの建設を認めていると受け取られかねず、それがダム建設計画の推進につながることを警戒するという趣旨のものであったが、このような反対理由も、必ずしも不合理ということはできず、右(一)(1)で述べたそれまでの地元住民の対応からしても、地元住民を説得することが容易であったとは考えられない。

エ 情報公開以外の方法でその概要が既に明らかになっているような情報は「著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」には当たらないとの主張について(原告の主張3(二)(2)ウ)

請求情報と同一、又はほぼ類似する情報が他の手段方法で明らかになっているような場合は格別として、単に概要が明らかになっている程度のものでは、「公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」に該当しないとはいえず、また本件においては、請求情報と同一、又はほぼ類似する情報が既に明らかになっていると認めることもできない。

(三) 以上のとおり、本件非公開情報は、本件条例八条四号に該当し、同条により、実施機関は公開しないことができるのであって、同条本文に基づいてなされた本件処分は違法なものとは認められない。

三争点3について

被告は、本件処分において、別紙処分目録1(一)ないし(三)の各理由欄及び同目録2記載のとおりの理由を付記しており、右記載は、本件条例の非公開事由規定条項への該当性を示すのみならず、概括的にではあるが、その具体的内容をも説明するものであるから、原告は、それによりいかなる事由によって本件処分がなされたかを了知することができ、本件処分の理由付記に、違法な点はない。

四以上のとおり、原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。

(裁判長裁判官福富昌昭 裁判官森義之 裁判官西田隆裕)

別紙処分目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例